1986年 1006P
東洋文化研究所紀要 別冊
序
宗教現象の研究には、教理、教団、儀礼の研究のいずれの一つを欠いても、総体としての宗教現象を把握することが できないことは周知の事実である。
中国仏教の研究についても、教理と教団の研究については従来、成果をあげてきたが、儀礼の研究はほとんど手がつ けられていないのが現状である。かつて大谷光照氏は歴史資料の蒐集と分析から唐代の仏教儀礼の研究をおこなったが (『唐代の仏教儀礼』有光社、昭和十二年)、現代の中国の仏教儀礼との関連についてはまったく触れていない。
現代中国の仏教儀礼の実態調査について、外国では Holmes Welch の The Practice of Chinese Buddhism, (1900–1950, Harvard Univ. Press, 1967.) がある。日本においては部分的な報告はあるが、まとまったものは皆無であった。道教儀 礼については大淵忍爾博士の『中国人の宗教儀礼』(福武書店、昭和五十八年二月)があるが、仏教儀礼については儀礼研 究を軽視する仏教学界の風潮を受けて、未だ実態調査の成果が体系的に公表されたことがなかった。
私は将来、中国仏教儀礼史の全体像を把握したいと考えているが、その研究を遂行する準備として、大へん大ざっぱ 作業仮説をたててみた。それは中国の唐の儀礼は、日本の南都の寺院や高野山、比叡山などに伝承され、唐末五代か ら北宋にかけての儀礼は、韓国の仏教寺院に保存され、南宋のそれは日本の五山禅林に、明代以後のものは現在の中国 大陸の寺院や、香港、台湾、東南アジアの華人社会の中国寺院や、日本の黄檗宗に伝承されているのではないか、とい うことである。このなかでまず第一に手をつけたのが現代の中国仏教の儀礼の実態調査であった。
現在、中華人民共和国においても仏教寺院においては「朝晩課」などの通常儀礼をはじめとして、葬送儀礼や修道儀 礼も寺院内に限っておこなわれるようになったが、自由に個人で実態調査することはできないのが現状である。自由に 中国の仏教儀礼の調査が可能なのは、香港、台湾、東南アジアの華人社会の中国寺院であるので、本調査報告も主とし 上記地域の中国寺院の調査にもとづいた報告である。
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